尚歯会
 尚歯会は白楽天が始めたものと云われており敬老会みたいのものでしょうが、敬老会が他人に御祝いしてもらうのに対して、これは自分たちで自ら祝うもののようです。
白居易
 胡・吉・鄭・劉・盧・張等六賢、皆多年寿、予亦次焉。偶於弊居合成尚歯之会。七老相顧、既酔甚歓。静而思之、此会稀有。因成七言六韻以紀之、伝好事者。
 (胡・吉・鄭・劉・盧・張等六賢は、皆年寿多く、予も亦た焉(これ)に次ぐ。偶たま弊居に於いて尚歯之会を合成す。七老相い顧み、既に酔いて甚だ歓ぶ。静かにして之を思えば、此の会有ること稀なり。因りて七言六韻を成して以て之を紀(しる)し、好事の者に伝う。)

七人五百七十歳  七人 五百七十歳
拖紫紆朱垂白鬚  紫を拖(し)き朱を紆(まと)い 白鬚を垂る
手裏無金莫嗟歎  手裏に金無きも 嗟歎すること莫かれ
樽中有酒且歓娯  樽中に酒有りて 且(しばら)く歓娯す
詩吟両句神還王  詩は両句を吟じて 神還た王(さか)んなり
酒飲三杯気尚麤  酒は三杯を飲みて 気尚お麤(あら)し
嵬峩狂歌教婢拍  嵬峩たる狂歌 婢をして拍(う)たしめ
婆娑酔舞遣孫扶  婆娑たる酔舞 孫をして扶(ささ)えしむ
天年高過二疏傅  天年 高く二疏の傅を過ぎ
人数多於四皓図  人数 四皓の図より多し
除卻三山五天竺  三山 五天竺を除卻すれば
人間此会更応無  人間 此の会 更に応に無かるべし



館柳湾 
伊澤朴甫宅尚歯会
 故友伊澤蘭軒嘗擬招親交中高年者設尚歯之宴未果而没。刈谷棭斎在其数中而亦尋物故矣。今茲天保丙申秋九月十日賢嗣朴甫設宴招集。蓋終其先志也。余亦与之座間賦一律似朴甫及棭斎後人少卿。

 (故友 伊澤蘭軒 嘗つて親交中の高年者を招き、尚歯の宴を設けんと擬し未だ果さずして没す。刈谷棭斎 其の数の中に在りて、亦た尋いで物故せり。今茲に天保丙申秋九月十日、賢嗣朴甫 宴を設けて招集す。蓋し其の先志を終えんとするなり。余亦た之に与(あずか)り、座間一律を賦し、朴甫及び棭斎の後人少卿に似(しめ)す。)


雨後楓葉菊花天  雨後の楓葉 菊花の天
招集高堂開綺筵  高堂に招集して綺筵を開く
尚歯漫誇頭似雪  尚歯 漫(みだ)りに誇るも 頭は雪に似たり
延齢共酌酒如泉  延齢 共に酌めば 酒は泉の如し
新詩吟就徒為爾  新詩 吟就るも 徒為のみ
旧事談来已惘然  旧事 談じ来れば 已に惘然
不見当時盧与狄  見えず 当時の盧と狄
衰顔慚対両青年  衰顔 慚いて対す 両青年に


雨が止んだ後の紅葉と菊が咲いたこの日、屋敷に招かれて宴会に列席する。
年を取ったことをみだりに自慢しているが、頭髪は雪のように白い。延齢という銘酒をみんなで飲むが、酒は次から次へと泉のように出てくる。
新しい詩が出来たがもう無駄なこと、昔のことを話し合うがそれももうぼんやりとしたことだ。
この席には残念ながら蘭軒と棭斎の姿はない。彼らの跡取りである二人の青年に対すると、この年老いてやつれた顔が恥ずかしい。

盧と狄:この二人は白居易の尚歯会に同席していたが、若かったので正式メンバーにはならなかった。伊澤蘭軒と刈谷棭斎は柳湾たちより大分若かった。

参考図書
 白楽天詩選 川合康三訳注 岩波文庫
 日本漢詩人選集 館柳湾 鈴木瑞枝著 研文出版


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